要旨

日本の地域在住高齢者1,094名（60歳以上）を対象に、精神運動覚醒検査による客観的な眠気と軽度認知障害（MCI）の関連を調査した研究です。
解析の結果、平均反応時間が遅い群、ばらつきが大きい群、反応遅延が多い群では、いずれもMCIのリスクが約2倍に上昇していました。
これは、客観的な覚醒度の低下が、睡眠関連因子を調整した後でもMCIリスクの高さと独立して関連しており、精神運動覚醒検査がMCIリスクのある個人を特定する上で有用なツールとなり得ることを示唆しています。
原題：Deterioration of psychomotor vigilance and mild cognitive impairment in Japanese community-dwelling older Adults: The toon health study

要旨

日本の医師1,226名を対象とした全国調査では、長時間労働と睡眠不足が心身の健康に深刻な影響を及ぼすことが明らかになりました。
勤務時間が長くなるほど睡眠時間は短くなり、燃え尽き症候群（バーンアウト）、うつ病、交通事故のリスクが高まっていました。
さらに、睡眠時間が6時間未満または8時間以上の医師では、反応速度が低下し、注意力が落ちていることが示されました。
特に重要なのは、睡眠時間そのものよりも「客観的な覚醒度」の低下が、うつ症状やバーンアウトの重症化と強く関連していた点です。
睡眠不足と精神運動覚醒検査のパフォーマンスの低下だけでなく、パフォーマンスの低下とうつ病および燃え尽き症候群との関連性も明らかにしました。
原題：Objective alertness, rather than sleep duration, is associated with burnout and depression: A national survey of Japanese physicians

要旨

日本人903名（男性346名、女性557名）を対象に、5年間の追跡調査で精神運動覚醒度と交通事故発生の関係を検証しました。
その結果、反応速度が遅い（覚醒度が低い）人ほど、交通事故リスクが有意に高いことが明らかになりました。
特に、反応速度が最も良好な群の事故発生率は、最も低い群の約3分の1に抑えられていました。
注目すべきは、この関連が「日中の強い眠気（EDS）を自覚していない人」においてより明確だった点です。
つまり、本人が眠気を感じていなくても、客観的に測定された覚醒度が低下している場合、自動車事故の発症リスクの上昇と関連していることが示されました。
精神運動覚醒テストは、一般集団、特に主観的EDSのない人々において、睡眠に関連する健康起因事故の予防に有用である可能性があると結論づけられました。
原題：Decreased psychomotor vigilance is a risk factor for motor vehicle crashes irrespective of subjective daytime sleepiness: the Toon Health Study

要旨

運転中の疲労は、事故や場合によっては致命的な衝突のリスクを高めることが示されています。疲労は深刻なリスクですが、一部のドライバーはそれを軽視しています。
マレーシアの石油・ガス輸送業界のタンカードライバー58名を対象に、運転疲労行動を検証し、運転疲労が実生活（路上）における運転パフォーマンスに及ぼす影響を明らかにしました。
その結果、運転後には反応時間が遅くなり、ミスの数も増加。特に2日目では疲労の蓄積によるパフォーマンス低下が顕著に表れました。
さらに、精神運動覚醒テストで得られた数値と走行性能調査データとの間には負の相関があり、疲労が進むほど運転能力が低下することが示されました。
本研究は、長時間運転を繰り返すことで注意力や判断力が確実に損なわれ、交通安全に深刻なリスクを及ぼすことを実証しています。
原題：Implementation of a psychomotor vigilance test to investigate the effects of driving fatigue on oil and gas truck drivers’ performance

要旨

日本の高齢者介護施設で働く18～67歳の女性688名を対象に、睡眠呼吸障害（SDB）と持続的注意力の関係を調査した研究です。
参加者は在宅で呼吸モニターを装着し、睡眠中の呼吸状態を測定。同時に、注意力を評価するため10分間の精神運動覚醒度検査を実施しました。
解析の結果、BMIが22以上の女性では、中等度以上のSDBを有する群は、SDBの無い女性と比較して、最も遅い10%の反応時間が有意に悪化していました。
この関連は、睡眠時間や飲酒習慣、高血圧の有無を調整しても維持されました。
よって、SDBと肥満の両方を有する女性（比較的若い年齢を含む）において、持続的注意力の低下が見られることを示唆しています。
原題：Impaired psychomotor vigilance associated with sleep-disordered breathing in women working in the care of older adults in Japan

要旨

健康な成人を対象に、1日あたりの睡眠時間を 8時間・6時間・4時間に制限して2週間過ごす群と、完全に徹夜を続ける群を比較しました。
その結果、6時間睡眠を2週間続けるだけで、2日間徹夜したのと同等の認知機能低下が確認されました。
しかも被験者自身は強い眠気を自覚しておらず、「眠気の自覚」と「実際のパフォーマンス低下」には大きなギャップがあることが明らかになりました。
さらに、脳波などの生理的指標では改善が見られず、慢性的な睡眠不足は体が慣れたように見えても、注意力や判断力は日を追うごとに確実に損なわれていくことが示されました。
研究チームは、睡眠不足の影響は「累積した覚醒時間」と直線的に相関し、起きている時間が約16時間を超えると急激にミスが増えると結論づけています。
このことから、「毎日6時間未満の睡眠でも大丈夫」という考えは誤りであり、慢性的な睡眠負債は自覚のないまま深刻なリスクを高めることが科学的に示されています。
原題：The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation

要旨

南オーストラリア大学睡眠研究センターの研究では、睡眠不足による疲労がパフォーマンスに及ぼす影響を、アルコール摂取時の影響と比較しました。
40名の被験者を対象に、28時間の徹夜と、血中アルコール濃度が0.10％に達するまで飲酒する条件で、手と目の協調を要するテストを実施。
その結果、覚醒時間が長くなるほど、またアルコール摂取量が増えるほど、パフォーマンスは直線的に低下しました。
特に、17時間の連続覚醒は血中アルコール濃度0.05％（多くの国で飲酒運転禁止の基準値）と同等の低下を示し、24時間の覚醒は0.10％に相当することが明らかになりました。
研究者は、中程度の疲労であっても飲酒と同等の危険性を持つことを示し、疲労によるリスクを「アルコール換算」で伝えることが、政策や社会にとって有効であると結論づけています。
原題：Fatigue, alcohol and performance impairment